どうなる?労基法改正「勤務間インターバル」と「週44時間特例廃止」がグループホーム運営に与える影響と対策
こんにちは。千葉県で障がい者グループホームを運営しているSMILE HOUSEです。みなさん、日々のシフト作成や業務管理を行う中で、スタッフの「働きやすい環境づくり」をどのくらい意識していますか?
「大切な利用者様に安心した暮らしを提供するためには、まず働くスタッフが笑顔で元気に働ける環境が欠かせない」――。そう考えて、日々現場の調整や目配りに奮闘されている運営者や管理者の方も多いのではないでしょうか。
しかし、障がい者グループホーム(共同生活援助)をはじめとする福祉業界では、24時間365日の安定した利用者支援を維持するため、スタッフの「夜勤」や「遅番・早番」を組み合わせた複雑なシフト管理が欠かせません。ただでさえ人員不足が叫ばれる中、運営者の皆様が常に頭を悩ませているのが「労務管理」ではないでしょうか。
現在、国会や厚生労働省の研究会では、約40年ぶりとも言われる労働基準法(労基法)の大改正に向けた議論が進められています。法案提出の時期は見直されたものの、「現代の働き方に合わせた規制強化」の方向性は変わっていません。
今回は、数ある改正議論の中でも、私たちSMILE HOUSEと同じような夜勤や少人数運営の多い「障がい者グループホーム」に甚大な影響を与える2つのテーマについて解説します。
- 勤務間インターバル制度の義務化
- 法定労働時間「週44時間特例措置」の廃止
「まだ先の話だから」と後回しにしていると、いざ法制化されたときに「シフトが回らない」「違法状態になってしまった」という事態に陥りかねません。今のうちから内容を正しく理解し、今できる備えを始めていきましょう。
1. 勤務間インターバル制度の義務化:遅番・夜勤明けのシフトはどう変わる?
まず、最も実務への影響が大きいとされているのが「勤務間インターバル制度」の義務化です。
そもそも勤務間インターバル制度とは?
勤務間インターバル制度とは、1日の勤務終了後、翌日の出社までの間に、一定時間以上の休息時間(インターバル)を設けることで、働く方の生活時間や睡眠時間を確保するものです。労働者が日々働くにあたり、必ず一定の休息時間を取れるようにする、という考え方が元になっています。
しかし、現状の勤務間インターバル制度の導入状況別の企業割合をみると、「導入している」が 5.8%(令和3年調査 4.6%)、「導入を予定又は検討している」が 12.7%(同 13.8%)、「導入予定はなく、検討もしていない」が 80.4%(同 80.2%)となっています。1
このように現在は努力義務にとどまっており、導入している企業も少ない状態ではありますが、今後の改正では「11時間」(あるいは「9時間」など)のインターバル確保を完全に義務化する方向で議論されています。
なぜ9時間と11時間で異なるかというと、9時間は厚生労働省が助成金制度(働き方改革推進支援助成金)の支給要件の下限として設定している休息時間だからです。
一方の11時間は、EUの労働時間指令で定められている国際的な基準です。EUでは労働者の健康と安全を守るため、「24時間につき最低連続11時間の休息」を与えることが法律で義務付けられており、睡眠や食事、通勤、プライベートを含めた一日あたりに必要な休息時間として、11時間以上の確保が理想的とされているのです。
グループホームで発生しやすい「アウトな事例」
この制度が義務化されると、福祉の現場で長年「当たり前」とされてきた以下のようなシフトが組めなくなります。
- 事例①:遅番から翌日の早番
- 前日の遅番が「13:00〜22:00」で終了。
- 翌日の早番が「8:00〜17:00」で開始。
- 結果: 22時に退勤してから翌朝8時までは「10時間」しかありません。11時間義務化の場合、これは完全に違法となります(翌日の始業を9:00以降にずらす必要があります)。
- 事例②:夜勤(宿直)明け当日の夕方からの勤務
- 夜勤が朝8時に終了。
- 人手不足のため、同じ日の夕方17時からのシフトに応援に入る。
- 結果: 休息時間は「9時間」しか確保できていないため、これもアウトになります。
グループホーム経営者が取るべき対策
勤務間インターバルが義務化されると、これまでの「夜勤専門社員による連続夜勤シフト」「人手不足による、遅番の人に翌朝早く来てもらう」といった現場の融通が利かなくなります。そのため、今から取り組むべき対策は以下の通りです。
- 連続夜勤者の1出勤あたりの勤務時間の見直し:インターバル時間を考慮し、退勤時間を早めるor出勤時間を遅らせる必要が生じます。
- シフトパターンの総点検と見直し:「遅番⇒早番」の組み合わせを原則禁止にし、「遅番⇒公休」または「遅番⇒遅番」となるような標準パターンを再構築します。
- 「宿直」と「夜勤」の明確な区別:労働時間としてカウントされる「夜勤」なのか、監視・断続的労働として許可を得ている「宿直」なのかを再確認し、それぞれの拘束時間と休息時間の関係を整理しておきます。
2. 法定労働時間「週44時間特例措置」の廃止:少人数ホームの猶予がなくなる?
もう一つの大きな爆弾とも言えるのが、特例措置(週44時間制)の廃止議論です。
そもそも「週44時間特例措置」とは?
労働基準法では、原則として「1週間の法定労働時間は40時間まで」と定められています。しかし、例外があります。
商業や映画・演劇業、保健衛生業、そして接客娯楽業など(福祉施設も含まれます)のうち、「常時使用する労働者が9人以下の事業場」については、特例として「1週間におよそ44時間まで働かせても割増賃金(残業代)が発生しない」とされているのです。これを「特例措置対象事業場」と呼びます。
多くの小規模な障がい者グループホーム(1ユニット〜2ユニット構成で、スタッフ数が片手で数えるほどのアットホームなホーム)は、この「週44時間特例」を活用してシフトを組んでいるケースが少なくありません。かく言う私たちSMILE HOUSEも、この「週44時間特例措置」を活用して運営しています。
特例が廃止されるとどうなる?
この特例が廃止され、全産業一律で「週40時間」が適用されると、以下のような変化(コスト負担)が直撃します。
| 項目 | これまで(週44時間特例) | 廃止後(原則通り週40時間) |
| 1週間の枠 | 44時間まで通常賃金 | 40時間を超えた時点で25%以上の残業代が発生 |
| 月間のシミュレーション | 1ヶ月(4.3週換算)で約189時間まで通常勤務可能 | 1ヶ月で約172時間まで通常勤務可能(差分:約17時間) |
つまり、今まで通りのシフトを維持しようとすると、スタッフ1人あたり毎月約17時間分の「割増残業代」が新たに発生することになります。例えば、4人のフルタイムスタッフがいる小さなホームであれば、合計で毎月約68時間分の残業代コストが増加するか、あるいはその分の穴埋めのために新しいパートスタッフを雇わなければならなくなります。
小規模グループホームが取るべき対策
週44時間から40時間への移行は、経営体力の弱い小規模ホームほど致命傷になりかねません。そのため、以下の対策を急ぐ必要があります。
- 「1ヶ月単位の変形労働時間制」の正しい導入:福祉施設で必須とも言えるこの制度を適切に運用し、ある週が40時間を超えても、1ヶ月平均で週40時間に収まるような柔軟なシフト設計を学び、就業規則に明記する。
- パート・アルバイトの積極活用とマルチタスク化:フルタイムスタッフだけに頼る体制から脱却し、夜勤専門パートや、朝夕のラッシュ時のみ稼働する短時間スタッフの採用を進める。
まとめ:法改正を「ピンチ」ではなく「選ばれる職場づくり」のチャンスに変える
今回ご紹介した2つの改正議論は、一見すると福祉施設にとって厳しい「規制強化」でしかありません。しかし、見方を変えれば、これらをクリアできる体制を整えることは、「スタッフが疲弊せず、長く安心して働けるホワイトな職場」であることの証明になります。
特に福祉業界は慢性的な人材難です。求職者は「夜勤明けの負担が少ないか」「残業代が正しく支給されるか」「無理なく長く働ける職場であるか」を厳しくチェックしています。私たちが面接等で求職者の採用の有無をチェックするように、求職者側も厳しい目で私たち運営側の姿勢を見ているのです。
法改正の足音は着実に近づいています。たとえ法改正の決定が後ろ倒しになったとしても、働き方改革が推進される昨今においては遠くない未来に実施されることでしょう。直前になって慌てるのではなく、まずは「自社の今のシフトが、もし明日11時間インターバル義務化になったらどうなるか?」のシミュレーションから始めてみてはいかがでしょうか。
今からの小さな見直しが、将来の安定したホーム運営と、大切な利用者様への安心した暮らしの提供へとつながっていきます。
投稿者プロフィール

- スマイルハウスのスタッフ森です。施設内の様子など定期的に投稿していきます。
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